東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)146号 判決
一 請求の原因(一)ないし(三)の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、審決を取り消すべき事由の有無について検討する。
(一)1 本願発明の要旨、各引用例の記載内容、本願発明と第一引用例の一致点と相違点についての審決の認定については当事者間に争いがない。
なお、半導体素子と光伝送媒質との間に介在せしめられるものが本願発明においては高屈折率磁器材料であるのに対し、第一引用例においては屈折率が約1.9のSioであるけれども、審決は両者をともに「高屈折率材料」と表現しているだけで屈折率約1.9のSioが本願発明の高屈折率磁器材料にあたるとみているものでないことは審決理由から明らかである。また、後記のように結晶化ガラスには屈折率2.5前後のミラクロンがあるのであるから、審決が「結晶化ガラスのような高屈折率磁器材料」と述べている部分の「結晶化ガラス」は屈折率1.5~1.6程度のものを指しているのではなくミラクロンのようなものを指していると解するのが相当である。
2 そして、第一引用例記載の反射防止方法、すなわち半導体素子と光伝送媒質との間に<省略>に適合する高屈折率材料を介在せしめることによつて反射を少なくした方法は、第一引用例のように空気を光伝送媒質とする場合のみならず光学ガラスのような光学材料を光伝送媒質とするものにも適用し得ることは見易いところであり、また発光半導体素子、光検知半導体素子ならびに光学材料より成る光結合回路自体は第二引用例によつて公知であるから、この光結合回路に右の反射防止方法を適用しようと意図することも容易とみることができる。
(二) 問題は、発光素子または光検知器である半導体素子と光学材料との間に介在せしめる反射防止膜の材料として高屈折率磁器材料を選択することが容易といえるかどうかである。
1 成立に争いのない甲第二号証の二(本願全文訂正明細書)によれば、「屈折率2.5前後の高屈折率磁器材料としては、例えば日本碍子K.K製の結晶化ガラス磁器であるミラクロン磁器がある」(第四頁19行~第五頁1行)という記載があることが認められ、これと弁論の全趣旨をあわせれば、本件出願当時日本碍子株式会社製の結晶化ガラス磁器であるミラクロン磁器が存在していたこと、このミラクロン磁器は屈折率2.5前後の高屈折率磁器材料の例として知られていたことが認められる。
2 ところが、ミラクロンが特殊磁器の中のリシヤ磁器に含まれることは当事者間に明らかに争いがないところ、成立に争いのない甲第七号証(日本化学会編、化学便覧昭和三五年五月二五日第二版発行)によれば、リシヤ磁器の用途は耐熱材料(パイロセラムなど)、理化学用品であると一般に認識されていたことが認められるが、特に光学材料として用いられていたとか、あるいは用いうると一般に認識されていたとかの事実を認めるに足りる証拠はない。
したがつて、このミラクロンなどの高屈折率磁器材料を、透光性という性質も必要となる光学材料たる反射防止膜として利用しようとすることは一見容易でないようにも見える。
3 しかしながら、前記甲第七号証によれば、リシヤ磁器などの特殊磁器は透光性のある普通の長石質磁器とは異なり、顕著な透光性はみられないが、陶器とは異なり全く透光性がないものではないことが認められる。
しかも、光結合回路における反射防止膜の膜厚の最適値は光の波長の1/4をその屈折率で割つた値またはその奇数倍であることが第一引用例に記載されており(このことは当事者間に争いがない)、このような膜厚が非常に薄いものであることは明らかである(成立に争いのない甲第三号証(第一引用例)には、九〇〇~一五〇〇オングストローム程度のものが示されている。)。
4 そうすると、本件出願前特殊磁器は光学材料として使用された事実がなく、また利用し得ると一般に認識されていなかつたにせよ、顕著ではないとしても透光性があることが知られていたのであるから、これを前記のような反射防止膜に最適の薄膜にすれば透光性が得られるであろうことを予測することは当業者にとり容易であるとみるべきであり、しかも前記のように特殊磁器の一つであるミラクロンの屈折率は2.5前後であることが知られていたのであるから、ミラクロンなどの高屈折率磁器材料を光学材料である反射防止膜として採択することは当業者にとり容易であつたとみるのが相当である。
(三) また、本願発明が高屈折率磁器材料の組成を変えることによつて半導体素子と光学材料に適合した反射防止膜(磁器材料)を得ることができるという効果を奏することは当事者間に争いがない。
しかしながら、前記甲第二号証の二(本願全文訂正明細書)によれば、明細書には右のような効果についての記載がないことが認められるのみならず、成立に争いのない甲第六号証(雑誌「真空」第五巻第八号、昭和三七年八月末日までに国内に発行頒布された雑誌であることは当事者間に争いがない)によれば、チタン酸バリウム磁器(BaTiO3)の真空蒸着膜は組成を変えることによつてその特性を変えることができる旨が認められるから、薄膜の特性の一つである屈折率も組成を変えることによつて任意のものが得られると考えられるところ、前記甲第七号証によれば、右チタン酸バリウム磁器はミラクロン磁器などの特殊磁器に属するものであるから、本願発明におけるミラクロンなどの高屈折磁器材料も右チタン酸バリウム磁器と同様の特性をもつと考えられ、これを光結合回路における反射防止膜として採択すれば前記のような効果を奏することは当業者にとり当然予測しうることとみるべきであるから、前記のような効果を顕著なものとみることはできない。
(四) そうすると、本願発明は、出願当時の技術水準のもとに両引用例に基づいて容易に発明できたものとみることができ、審決の判断に誤まりはなく、審決を取り消すべき事由はない。
三 よつて、本訴請求を棄却することとする。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
発光素子または光検知器である半導体素子と光学材料とから成る光結合回路において、前記半導体素子と光学材料との間に高屈折率磁器材料を用い反射を少なくしたことを特徴とする光結合回路における反射防止方法